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広島高等裁判所岡山支部 昭和44年(く)9号 決定 1969年9月18日

少年 D・S(昭二八・六・五生)

主文

原決定を取り消す。

本件を岡山家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は記録編綴の抗告申立書および抗告理由書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

所論は要するに、原決定の処分が重きに失し、著しく不当であるというものである。そこでこの点につき本件記録を検討するに、これにより認められる少年の素質および環境面における若干の問題点、特に、(1)既に中学生の頃から怠学、不良交友などの問題行動があらわれており、生活が無軌道なものになつてきていること、(2)その実兄三名につきみるに、程度の差こそあれいずれも過去に反社会的行動に出た事実が認められ、この点のみからも保護者たる実父母の保護能力がかなり疑問視されること、(3)最近は暴力団構成員との接触すら認められ、とりわけその職場環境がこのましくないこと、などの諸点を考慮に容れると、もはや在宅保護をもつてしては矯正効果を期待できないとして、中等少年院に送致することとした原決定の処分も決してこれを理解できないところではない。

しかしながら、本件記録上、そして、当審における事実取調の結果によると、

一  少年は格別重視すべき非行前歴を有しないこと、

二  本件非行はいずれも年長の共犯に追従してなされた偶発的なものであり、現在では少年に、一応の反省も認められること、

三  知能は普通域にあり、性格面において多少の偏倚は指摘されるけれども、その程度が大とまではいい得ないこと、

四  一応正業に就いており、勤労意欲も認められること、

五  現在においては実兄らも更生し、いずれも真面目に稼働しているもののごとくであり、少年によからぬ影響を及ぼした安○弘も他に別居し、少年にも、前示○田方に戻らぬ決意が認められること、

といつた諸事実が認められる。

従つて、もし幸いにして、保護者特に実父において、かかる事態に立ち至つた原因についての深刻なる反省が加えられ、かつ、少年を従前と全く異なつた健全な環境に移すことが期待できるならば、在宅の儘で矯正の効果をあげることも不可能とまでは考えられないし、実父にも、その点の自覚が、不充分ながらも全くないわけではないようであるからこの段階で既に在宅保護の限界を超えたとは断定しがたく、この際はひとまず試験観察その他の方法を選択して、実父の前示の反省ないし自覚の程度を観察し、その充分なる確立を促がすとともに、少年のその後の成績をもみたうえで最終保護処分を決定することも決して無意味なこととは考えられない。さすれば、未だ在宅保護の可能性なしとはいえぬ本件について、ただちに少年を中等少年院に送致することとした原決定の処分は、結局、その要保護性を過大に評価しなされたもので、重きに失するというのほかはなく、右違法が決定に影響を及ぼすことは明白である。論旨は理由がある。

よつて、少年法第三三条二項、少年審判規則第五〇条により、原決定を取り消し、本件を岡山家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹島義郎 裁判官 石田登良夫 岩野寿雄)

参考二 附添人弁護士豊田秀男、嘉松喜佐夫の抗告理由(昭和四四年八月二七日付)

原決定はいちぢるしく不当であるからこれをとりけし、保護観察処分とすべきであると考えます。

原決定は理由を六項目あげていますが、その中には、同意しがたい見解が多くあります。

たとえば、(二)には、「動機はともかく犯罪の態様悪質」とありますが、強姦、強喝その他の犯罪をおかした場合にも、保護観察処分となつている例は決して少なくないことを考えるならば、原決定の理由としては説得力を欠くものがあると考えます。さらに、また同じような集団暴力事件と比較しても、本件がとくに悪質であるとは考えられません。むしろ、「動機はともかく」という点をもつと考慮すべきであります。

その他の項目をみると、一応反省の情がみとめられており、智能、性格などは極めて通常の少年であることが原決定の認定自体で明らかであります。

一つの問題は、親の保護能力ですが、原審裁判所は、両親の少年に対する愛情と保護の責任感を過少評価したといわざるを得ません。父D・Tが、決定を安易に考えていたことは否定できません。しかし、そのことは親としての愛情、少年の将来に対する憂慮がなかつたということにはなりません。その証拠に、現に父は抗告をして必死に嘆願をしているではありませんか。

この父及び家族の熱意と誠意を証明するために、別紙上申書を添附しました。父はハンドバック製造を営んでいますが、少年を手もとにおいて家業を手伝わせる決意です。

次の問題として、処分の公平の問題があります。少年の処分は保護処分で刑罰ではありませんが、制裁の意味もあります。従つて、処分は公平でなければなりません。この点について、一件記録で明らかなようにAに対して、同じ裁判所が保護観察処分を下したことと比較するならば、あまりにも処分の相違が大きすぎるのであります。

この比較は一件記録による容易になし得るところであります。

年齢、犯行歴(本少年については、これ自体、大きく配慮さるべき条件であります)を比較して、ほとんど、差がないのであります。

最後に、警察官が、本少年とAの両者とも保護観察処分相当の意見を附したことを考えて頂きたいのです。

裁判所は、検察官の意見に拘束されるべきではないとしても、検察官意見よりも重い処分を敢て行なわなければならない程の理由があつたのでしようか。

以上が抗告理由であります。

〔編注〕 受差戻家裁決定(岡山家裁 昭四四(少)二六〇八号 昭四四・一一・二〇決定保護観察)

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